支笏湖山線はかせになろう
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デジタル教科書を用いた授業実践

支笏湖山線はかせになろう

支笏湖山線はかせになろう

本研究活動は、基本的にデジタル教科書とそのコンテンツとしてARやVRなどの実装を行い、多様な学習者を対象とした授業実践とその評価を行うことでした。その最初に取り上げたのが、「支笏湖山線はかせになろう」(2020.9)という活動です。この活動は、学生が作成したデジタル教科書(デジタル教材)を、千歳市立支笏湖小学校の児童がiPadで操作しながら、支笏湖ビジターセンター(環境省)内の展示物を参考にクイズを答える、という活動です。
デジタル教科書はAppleのデジタル書籍作成アプリであるiBooksAuthorを用いて開発しました。iBooks Authorは、動画、静止画をはじめ3DオブジェクトやWebアプリケーションなど、様々なリッチコンテンツを統一したUIで提供可能な優れたツールです。例えば、ここでは、鳥の鳴き声を再生しクイズで解答するページを編集している様子です。残念ながらコロナ禍の2020年、Appleは突如としてiBooksAuthorの今後のアップデートの予定がないことを発表しましたここでは、自作教材としてのデジタル教科書の例として捉えて頂きたいと思います。

支笏湖山線はかせになろう

完成したデジタル教科書と
デジタルコンテンツ

デジタル教科書

こちらは、学生がビジターセンターを取材しまとめ、完成したデジタル教科書の例で、iPadのBooksアプリで表示しています。

VRコンテンツ

教科書には、クイズなどのほか、VR動画コンテンツを掲載しました。スマホ、タブレットでYouTubeアプリで再生すると、センサーによるジャイロ効果でVR体験が可能です。普段は行けない危険な川底の様子をデジタル教科書を使うことにより、体験できます。ちなみに、足元の梅の花に似たのが千歳梅花藻という希少な植物です。

ARコンテンツ

AR体験を提供するWebサービスVectary を利用したARコンテンツも掲載しました。作成した3Dオブジェクトを、Vectaryを介することにより、スマホやタブレットで表示することが可能で、明治時代、この鉄橋を渡っていた蒸気機関車を実物大で体験することができます。青空の反射や金プレートの様子などARらしい表現を見ることができます。ただし、学習者はAR独特のUIに慣れることが必要です。

作成したAR動画コンテンツ
山線鉄橋を走っていた蒸気機関車

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ユーザビリティテストの実施

デジタル教科書のようなコンテンツプラットフォームが多くのアプリが提供するコンテンツを操作する際には、それぞれのアプリの操作UIを熟知する必要がありますが、事前にユーザビリティテストを行うことで、解決できることも少なくありません。少なくとも、コンテンツの操作練習を提供することが求められます。たかがデジタル教科書なのに?と思うかもしれませんが、行っていること自体はアプリケーションと同様です。UIを意識して設計する必要があります。
こうしたリッチコンテンツをユーザ扱うために必要なスキルや、ユーザインターフェースを検証するためには、デジタル教科書もアプリと同じようにユーザビリティテストを行う必要があります。私たちは、「支笏湖山線はかせになろう」のデジタル教科書を用いて、タスク達成度を計測するユーザビリティテストを行いました(N=9、被験者は大学生)。

ユーザビリティテストの例

ユーザビリティテストにおける回答例を示します。

  1. 回答を選択して「答えを確認」を押すことがわかりづらかった
  2. 回答が正解か不正解かわかりづらかった
  3. 画面下部分に「次のページ」を示す表記が欲しかった
    (スライドすることに慣れていなかった)
  4. AR・VRを表示させるボタンをタップして反応したかどうかわからなかった
    (表示に時間がかかった、タップしても反応しなかった、矢印の位置からどこをタップすればよいかわからなかった)
  5. ARオブジェクトは表示させるもARは表示できていなかった
    (右上のAR表示ボタンがわかっていなかった)
  6. AR表示のためブラウザに飛んでから、ブックに戻れなかった
    (左上のブックに戻るボタンは押さなかった、ブラウザの戻るボタンを押していた、iPadのホームボタンを押すことをしなかった)

こうした回答を読み解くと、デジタル教科書自体やコンテンツ提供サービス独自のUIが影響していることがわかります。

支笏湖山線はかせになろう

コンテンツプラットフォームとUI

デジタル教科書のようなコンテンツプラットフォームが多くのアプリが提供するコンテンツを操作する際には、それぞれのアプリの操作UIを熟知する必要がありますが、事前にユーザビリティテストを行うことで、解決できることも少なくありません。少なくとも、コンテンツの操作練習を提供することが求められます。たかがデジタル教科書なのに?と思うかもしれませんが、行っていること自体はアプリケーションと同様です。UIを意識して設計する必要があります。

支笏湖山線はかせになろう

多様な学習者を対象に

さて、「支笏湖山線はかせになろう」では、千歳市立支笏湖小学校の児童を対象にした活動でした。実はこの小学校は、全校児童が9名(当時)という小規模な小学校です。
「支笏湖山線はかせになろう」の活動も、全学年の全児童が一斉に参加する授業になります(厳密には全教員も参加です)。今回は、以下のように2班に分けて活動を行いました。

全校児童:9名

1班(5名):5年生(1)、4年生(1)、3年生(1)、1年生(2)
2班(4名):4年生(1)、3年生(2)、1年生(1)

これは、授業設計をする意味ではかなり難易度が高い取り組みです。しかも、参加する児童にとって、支笏湖ビジターセンターは毎日のように行っている場所の一つなのです。そこで、私たちは、タブレット端末や多様なコンテンツを取り入れた教材を通じ、普段見慣れた支笏湖ビジターセンターの内容を角度を変えて児童に見せることにより、興味と関心を与えることを実践してみたわけです。

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支笏湖小学校の子供達の活動の様子

実際に「支笏湖山線はかせになろう」の活動を行い、驚いたことがあります。例えば、私たちが提供したデジタル教科書のクイズは、適当に回答しても正解を見つけることは可能です。 ところが、児童の中には、展示物の中の正解を見つけようと、一生懸命に資料とデジタル教科書を見比べながら学習するものもいたのです。ちなみに、操作補助にあたった学生たちには、児童の主体性を最大に尊重し、操作でつまづいている場合のみ支援するようにと、事前に伝えておきました。
また、ARに関しては、明治以来、支笏湖畔を走行していた蒸気機関車を、当時の鉄橋(山線鉄橋)付近にて、実物大で表示し、その大きさを体験する活動に用いました。 このように、当日の活動を通じて、子供達はタブレットの問題を解くという課題や、展示物という多様な学習環境を整えることにより、タブレット内のARやパノラマ動画というコンテンツと双方向のやりとりを通じて学び、活動を行ってくれました。「学習は、子供自身が参加して双方向のやりとりを通じて学ぶのがベストであり、子供が実際に何かを「する」ことが大切だ」というジョン・デューイの提言を実現できた思いです。

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デジタルネイティブと
非デジタル世代の教育課題

ところで、多様という点において、私たちは世代を超えて教育を行う必要を意識する必要があります。現代の学習者の多くは、マーク・プレンスキー(Prensky, Marc.)が示した「デジタルネイティブ」 です。彼によれば、1979年以降に生まれた人全般を差しますから、2022年現在ですと43歳以降の方は「デジタルネイティブ」ということになります。
例えば、Googleがサービスを開始したのが1998年ですから、1979年生まれのデジタルネイティブは19歳だったことになります。同様に、YouTubeがサービスを開始したのが2005年ですから27歳、Twitterはその翌年の2006年ですから28歳だったことになります。ついでに言えば、彼らが29歳の時にiPhoneが登場(2007年)し、PostPC時代へと変化します。マシン(PC)からツール(スマートフォン)への変容です。デジタルネイティブの周りには、膨大なデジタルコンテンツやアプリが満ち溢れた世界に24時間生きているのです。このように、成人した前後から、彼らの周りにはツールとしてのデジタルが次々と現れ、それらを活用しながら成長してきたことになります。もちろん、それ以降の人たちの中には生まれた時から、これらのサービスに囲まれて生きてきたことになります。電子メールなどよりもSNSに慣れ親しんだ世代といえます。一方、例えば、2022年現在50歳以上の教員はデジタルネイティブ以前の人たちですから、行動する上で真っ先に思いつき手を伸ばすのはアナログな辞書や新聞なのかもしれません。スマホで検索するよりも、図書館に足を運ぶかもしれません。ここで注意しなければいけないのは、アナログが悪であるということではありません。むしろその逆で、本来はアナログ、デジタル双方を使いこなすことに価値が見出せる場合も少ないありません。ただし、この二つの世代間では、行動する際に真っ先に思いつくツールが異なる場合が多いということです。これを「使用する言語が異なる」と解釈します。学習サービスを提供するユーザではデ ジタルネイティブです。彼らにとって価値ある教育を適切な方法で提供すべきであり、それはデジタルネイティブ以前のものと同じであるはずはないのです。
「活字情報とSNS情報の違い」について寺島 実郎(日本総合研究所 会長)は次のように述べています。すなわち、「SNS情報」は検索エンジンによってもたらされ、関心事は検索エンジンに提供されます。つまり、SNSに依存することで、我々は全体値から遠ざかることになります。寺島氏は、これを思考の外部化と呼び警鐘を鳴らします。「自分の思考回路で考え」ろ、と。

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教育の目的

近代における教育の目的は、時代の背景を受けて大きく左右されることがあります。最もわかりやすい例は戦争による影響でしょう。日本では、戦後間も無く、まだ戦前、戦中において使用していた教科書を使わざるを得ず、その結果、不都合な部分を塗りつぶして使ったというのは端的な事例といえます。例えば、画一的に、いかに素早く正確な記憶を呼び起こすことが評価されるようになったのは、一体何が要因だったのでしょう。これは、比較的洋の東西を問わず、似たような傾向がありました。背景には産業革命に伴う社会構造の変化があります。よく言われるのが、アメリカのフレデリック・テイラーによる「科学的管理の原理」 (Frederick Winslow Taylor, 1911)の影響です。いわゆるテイラーイズムによるものです。工場において「効率と生産性を最大にする」ために、割り当てられた仕事を正確にこなすのが労働者を大量に育て上げることが、20世紀初頭の社会背景として求められたのです。すなわち、「優れている」かではなく、「早いか」ということです。この「早い」ということは定量化しやすいので、教育の評価に用いることは容易でした。
アメリカでは、1912年に一般教育委員会で「平均的な生徒を標準とする教育の提供」が明示されました。肉体労働のための準備を基本とし、高次の思考力や創造性の育成を後押ししないということです。多様性が認められない教育の様式が定着したわけです。一方、現代社会で求められることは、真逆です。すなわち、生徒一人ひとりのニーズに即し、学習体験をパーソナライズ化することが求められているのです。こうした、脱テイラーイズムは教育への影響もさることながら、高齢化する社会への影響も少なくありません。すなわち、テイラーイズムが優秀な労働者の排出を目指し企業への貢献を中心とした取り組みだったことは、いわば人生を、教育、仕事、老後というステージを作り出したことにもなります。一方、脱テイラーイズムは、高齢化した現代社会においては、いつでも教育を受けることができたり(リスキリング)、好きなだけ仕事を続けることができる時代へと社会の変化に対応することになるのです。このように、教育は時代の背景をを受けて変容するものです。どちらかというと、時代の変化を受けて教育が変容してきた歴史が目立つのかもしれませんが、少なくとも限られた資源を高齢化する人間が分配しなくてはならなくなった地球にふさわしい教育 の方法が模索されているのかもしれません。

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モチベーション

Rewiring Educationでは「子供の教育は、子供が生まれつき得意なこと、興味があること、好きなことを子供自身に発見させることを第一にすべき」と述べられている。ここで大事なことが、モチベーションです。モチベーションの重要性は、多くの教師が気づいています。しかし、モチベーションを定量化する有効な手段がないために、それを示すことができませんでした。しかし、現代社会では、企業内においてもモチベーションが重要であるとされ、心理学の分野で内発的モチベーションの重要性が、自己決定理論 で示されるようになりました。内発的モチベーションとは、いわば、本人が自らやりたくてやっている状態を指します。一方、他人から人参をぶら下げられるようなモチベーションは外発的モチベーションとされ、内発的モチベーションの方が持続性が高いと言われています。内発的モチベーションを引き上げる要素として、3つの基本的要因が示されています。自律性、有能感、関係性です。自立性は「自分の意思で決めてやっている」という意識があること、有能感は「能力を発揮し、周囲に影響力を持つ」と自覚すること、関係性は「他者と良好な関係でいたい」と思うことです。このことが、タブレット端末などテクノロジーを用いて、デジタルネイティブに行った私たちの取り組みでは上手く実現することができました。これについては、後ほど述べたいと思います。
また、自己決定理論とは別に、サービス工学的にモチベーションを高めるテクニックがあります。それは、ユーザ自身に選ばせるという方法です。この場合のユーザは学習者です。こうすることで、学習者が学習に没頭する姿勢が長続きすることがわかっています。「支笏湖山線はかせになろう」の取り組みにおいては、「どの展示物を探したら良いのか」や「どの回答を選ぶと良いのか」などは、基本的に児童に選ばせるようにしていました。
例えば、こちらの例では「どの展示物を探したら良いのか」や「どこでARを表示するのが適当か」など、児童が自分で選んでいます。

また、失敗することも大事です。失敗することを恐れなくなることが大切です。
これからの時代の教育では、テイラーイズムの時代と異なり、ここの学習者に対して内発的モチベーションを後押しし、子供がやりたいと思うことはどんなことでも成功する可能性があると信じるように教えることが大切です。こうすることで、子供に自信が生まれ、「学習」の効果も高まるはずです。

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学習のパーソナライズ

テイラーイズムの時代、学習として評価されたことは、如何にして短時間で暗記を行い、その記憶を呼び起こせるかでした。教えられた作業を直ぐに的確にこなすための労働者として求められたことです。このように、これまで暗記は学習と置き換えられて考えられてきました。しかし、本来、暗記と学習は全く別物です。暗記は、所定の情報を脳内に保存し、必要に応じて取り出す認知能力です。一方、学習は、情報の意味を理解して、状況に応じた最善の活かし方を理解することです。一方、学習のプロセスは取得(事実を見つける)、暗記(事実を覚える)、理解(事実を活用する)というステップを踏まえます。RewiringEducationでは、デジタルネイティブにとって(あるいはデジタル時代において)、取得と暗記はそれぞれテクノロジーで代用できるが、理解はテクノロジーで置き換えることができないとされています。確かに、Googleを使って検索することにより情報を取得し、クラウドストレージに保存することはできますが、活用することは人が行う必要があります。
そんな学習について、近年求められているのがパーソナライズです。アダプティブラーニングのように、AIを活用して個別の学習者に最適化した方法の提示を行うことが試みられていますが、他にも個々の学習スタイルを尊重することでも実現可能です。学習スタイルには視覚型、聴覚型、体感型があります。それぞれ、目で見て学習したり、耳で聞いて学習したり、実際にやってみて学習します。しかし、これらは学習者それぞれによって異なることがあります。「支笏湖山線はかせになろう」で作成したクイズの一つに「支笏湖にいる鳥」があります。これは、支笏湖周辺にいる鳥の鳴き声を聞き、該当する鳥を探す聴覚型の教材です。実際には、支笏湖ビジターセンターの中に、鳥の鳴き声とそれを紹介する設備があり、児童たちはそれを使いながら正解を探していました。デジタルな教材を組み合わせることで、学習のパーソナライズに対応することも可能になります。

ギャラリー

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関連資料

  • Vectary https://www.vectary.com/
  • “Digital Natives, Digital Immigrants Part 1.” On the Horizon. Vol.9, no.5 (2001): 1-6.
  • “ The Principles of Scientific.” Taylor, Frederick Winslow (1911).